猫本36:『ひげよ、さらば』★上野瞭 [猫★主役小説]

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『ひげよ、さらば』★上野瞭

こちらで、猫本ブログを書き始めてから、e-徒然草を書かれているべっちゃんさんに教えていただいた本です。

NHKの人形劇にもなったという名作だということで、猫の本について書いている方なども「名作」として挙げていたりしますが、私は知りませんでした。

図書館に予約して、取りに行ったら、「お、重い・・・ぶ厚い・・・」と一瞬引く。(写真、わざと斜めから撮っています、厚いでしょ?厚いよね?)
私は飽きっぽいので、長編が苦手なのです。

でも、読み始めたら、夢中になってしまい、一気読み!!
主人公のノラ猫、ヨゴロウザを中心とした、猫仲間、猫社会(とその周辺)を描いた、どきどきわくわくの冒険譚で、「次は、次は?」と先が気になって、止められなくなった。

話の内容や展開は全然違うのだけど、「仲間」「冒険」「強大な敵に皆で立ち向かう」といったところが冒険者たち――ガンバと十五ひきの仲間を読んだ時のわくわく感に近かった。ガンバたちはねずみですが。

子供の頃に読んでいたら、本当に夢中になって「面白かった~!」で、この感想だけで終わったかな、という気がします。
最初は「迷い猫」で、記憶がなく、よそ者ということもあって、どこかオドオドしたヨゴロウザが、多くの経験を経てたくましく成長していく過程や、野犬との闘いが強く印象に残ったことでしょう。

でも、すでに私、中高年ですんで・・・それだけでは終わらなかった。
猫たちの身勝手ぶりというか、自分も含めて「ああ、こういう人っているよね」と、人間社会に反映させて考えてしまって、ちょっと苦しくもなりました。
見事なほどに徹底してリアリズムというのか・・・「完璧な善人(猫)」が出てこない。全然甘くない。

ヨゴロウザの相棒、片目にしても、その他のユニークな名前を持った猫たちにしても、「イイヤツ」な面もあれば「ちょっとどうなの?」という面もあり。
ヨゴロウザにしたって、途中から暴君になったり、マタタビ中毒患者になったりして、「わかりやすいヒーロー」とはほど遠い。

それに、「最後の戦い」の緊張感が高まったと思ったら「あ・れ?」な結末だったりもして、お話自体も、わざと「王道はずし」をしているような。
全体を通して「生死観」や「老いることの哀しみ」も色濃く現れている気がしました。
中年から老年になり、身体の自由がきかなくなった状態で読んだら、また違った印象が残りそうです。

読書会の課題本になったら、すごく怖いな。
歩んできた人生、関わってきた人々、「生死」について、「自分という存在」について考えてきたこと、などが、感想を言い合うことで見えてしまいそう。

すごく読み応えのある小説で、久しぶり頭をフル回転させて読書をし、長く後を引いたたように思います。
べっちゃんさん、骨太な一冊、お薦めありがとうございました。

興味を持たれた皆様、この本は心して読んだ方が良いと思います。精神状態が良くない時には薦めません。


ひげよ、さらば (理論社の大長編シリーズ)

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べっちゃん

気に入っていただけたようで、なによりです。「ひげよ、さらば」は児童文学では収まりきれない物語です。若い頃読んだので、「老いる哀しみ」まで読み取るには至りませんでした。
残るは64冊です。どんな本が登場するのか楽しみにしています。
by べっちゃん (2011-10-12 08:47) 

春日 淳樹

ご訪問ありがとうございましたv
猫の本をご紹介されているのですね!
悪役になったり、ヒーローになったり、めっちゃ愛らしくなったりv
私もいくつかネコの登場する本を読みましたが、飽きない動物ですよね♪
またお邪魔させていただきますv
by 春日 淳樹 (2011-10-12 09:59) 

マルゲリッチ

”ひげよ、さらば”って聞いたことのあるタイトルですが、こんなに奥の深そうな本だったのですね!!!
子供向けなのでしょうか、でも大人にも充分読み応えがありそうな…
by マルゲリッチ (2011-10-12 17:37) 

タックン

書評を読ませていただいて
是非読んでみたくなりました。
中高年の 高に入りかけている私ですので^^
by タックン (2011-10-12 19:50) 

ぷらすけ

ひげよ さらば NHKでやっていたのをかすかに覚えています。
だから内容は全然覚えていません(*^。^*)
by ぷらすけ (2011-10-12 20:16) 

ko-cha

「ひげよ、さらば」をNHKで見てた記憶はあるのですが、
内容はまったく覚えていません。
こんなに濃い内容なのですね。
子供向けの文学なのにマタタビ中毒って・・・。
でもきっと子供は大人が思っている以上にタフなんでしょうね。
改めて読んでみたくなりました。
by ko-cha (2011-10-13 00:20) 

駄々猫

>べっちゃんさん
そうですね、児童文学に閉じ込めておくのは勿体無いと思いました。猫のひげが抜ける>老いる(死が近づく)ことでもあるそうです。タイトルからして重厚なテーマを想起させるものだったのですね。
読むのに時間がかかる本は、ついつい後回しになってしまいますが、あと64回、頑張ります!
by 駄々猫 (2011-10-15 22:59) 

駄々猫

> 春日淳樹さん
はい、猫は魅力的すぎる生き物だと思います。
だから、作家の想像力も膨らむのかなあ・・・。
by 駄々猫 (2011-10-15 23:03) 

駄々猫

>マルゲリッチさん
児童文学ってことになっているのですが、大人になってからでないとわからないんじゃないかと思うような場面もあります。
福音館の冊子に連載されていたそうなので、「親子で読んで」ということだったのかも。今時の大人向けライトノベルよりも余程重みがあります。
by 駄々猫 (2011-10-15 23:05) 

駄々猫

>タックンさん
はい、是非体調と心の状態の良い時に読んでみて下さい。
響くところがあると思います。
by 駄々猫 (2011-10-15 23:07) 

駄々猫

>ぷらすけさん
あまり印象に残らなかったのでしょうか。他にもっと楽しいことがいっぱいある頃だったのかもねー。
by 駄々猫 (2011-10-15 23:13) 

駄々猫

>ko-chaさん
たぶん、人形劇では、あまりにもハードな部分は省いたのかも知れませんね。中年以降になって、はじめて感じ取れることがあると思います。
調子の良い時に是非。
by 駄々猫 (2011-10-15 23:32) 

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