猫本40:『性悪猫』★やまだ紫 [猫★主役マンガ]
『性悪猫』★やまだ紫
やまださんの作品に出てくる猫は、シニカルな視点を持っている。
「可愛い」というより、「ひねくれた」感じの猫が多い。
性格が悪いということではなく、世の中の理不尽さや、「当然」とされているけれど納得のできない物事に対し、密かに怒りを感じている、というような。
それはまた、やまだ紫という作家にも通じるように思う。
私は彼女のエッセイも読んだのだが、たとえば戦争とか金融危機とか災害などの「世の大事」ではなく、「小さな生活の中の矛盾」や「身近にある差別」といったものを見過ごさずに「待った!」をかけている。
帯には「暮らしの中でであう哀しみ、ねたみ、怒り、そして悦びを、猫の姿をかりて、やさしく、伸びやかに描く。」とあるけれど、猫を擬人化しているというのともちょっと違う気がする。
短編集のように、猫を主人公にしたマンガが連なっていて、言葉数もさほど多くないのだけれど、簡単に「読んだ」と言えないような深みを感じます。
これも帯にあった「詩的コミック」という表現はよくわかる。
「ひかげ」という作品の最後に「せけんなど どうでもいいのです お日様いっこ あれば・・・」という言葉があって、つまらない対人関係で悩んでいた時に、ストンと胸に落ちた。
私は子供がいないこともあり、彼女の「母親観」みたいなものには共感できないのだけれど。
日常生活の中で、時に感じるわだかまりのようなものを、これほど正直かつ美しく表現できる人をあまり知らない。
「すごく好きな本」というわけではないのだけれど、「日々の暮らし」そのものにちょっと倦んだ時に、ビタミン剤のような働きをしてくれる一冊です。
単行本も手元に置きたいけれど、文庫版解説が佐野洋子さんなので、単行本を手に入れたとしても、文庫、手放せないでしょう。
新編性悪猫 (ちくま文庫)
帯にある「猫の姿をかりて…伸びやかに描く」描き方気になります。
「吾輩は看板猫である」さっそく読みました。
銭湯のみーあも可愛いし、そば屋のクロチイも格好いいし訪ねたい!
猫が居る風景っていいですよね。
by 黒千鳥。 (2011-11-02 16:28)